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大阪高等裁判所 昭和63年(ネ)2072号 判決 1989年9月13日

控訴人

泉忠男

右法定代理人親権者

泉英二

同 母

泉智

右訴訟代理人弁護士

畑上雅彦

被控訴人

鈴村節男

中谷真一

杉谷義次

右中谷、杉谷両名訴訟代理人弁護士

山本栄二

村上有司

主文

一  原判決主文第一、二項中、被控訴人鈴村節男及び同中谷真一に関する部分を次のとおり変更する。

被控訴人鈴村節男及び同中谷真一は控訴人に対し、各自、金二一五五万〇四四五円及びこれに対する昭和六〇年五月一八日から右支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人の右両名に対するその余の請求をいずれも棄却する。

二  控訴人の被控訴人杉谷義次に対する本件控訴を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審を通じ、被控訴人鈴村節男及び同中谷真一の関係で生じた分はこれを三分し、その一を右両名の、その余を控訴人の負担とし、被控訴人杉谷義次の関係で生じた分は控訴人の負担とする。

四  この判決第一項の請求認容部分は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の申立

一  控訴人

1  原判決主文第一、二項を次のとおり変更する。

2  被控訴人らは控訴人に対し、各自、金七一〇六万一六一四円及び内金六二四九万七〇五四円に対する昭和六〇年五月一八日から、内金二三六万四五六〇円に対する昭和六一年一〇月二八日から、右各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

4  仮執行の宣言

二  被控訴人ら

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実欄に摘示のとおりであるから、ここにこれを引用する。

(原判決の訂正)

1  原判決三枚目表二行目の「傷害」を「損害」と、同五枚目表三行目から七行目までを「本件事故により控訴人に生じた損害は、昭和六三年三月三一日現在、別紙損害明細書記載(但し、合計金額77、836、874は72、836、874の誤記である。)のとおり総額七二八三万六八七四円(但し、原判決添付の別表Ⅰの①ないし③の合計額)である。」と改める。

2  同七枚目表六行目の「(なお、」から九行目末尾までを「控訴人は、小学校六年の一年間は殆ど入院生活であり、中学生活も入院通院づくめの闘病生活であったが、人一倍の努力をして当地方最難関の県立田辺高等学校に合格し、現在、同校二年に在学している。」と改める。

3  同七枚目裏一行目と二行目との間に、次のとおり挿入する。

「4 損害の填補

控訴人は、自賠責保険から後遺障害等級第七級の損害賠償として金八三六万円の支払を受けた。そこで、右金員を本件損害賠償金合計七二八三万六八七四円のうちの逸失利益の一部に充当すると、その残額は、金六四四七万六八七四円となる。

5  よって、控訴人は被控訴人らに対し、本件損害賠償として、連帯して金七一〇六万一六一四円(但し、この金額は控訴人の誤算によることが計算上明らかであり、控訴人の主張に基づく正確な金額は金六四四七万六八七四円である。)及び右金員から弁護士費用金六二〇万円及び原判決別表Ⅰの②、③の各金員を控除した残額金六二四九万七〇五四円(但し、前同様、正確な金額は金五四一三万七〇五四円である。)に対する本件訴状送達の日である昭和六〇年五月一八日から、原判決別表Ⅰの②の金二三六万四五六〇円に対する右金員の追加請求の日(原審第七回口頭弁論期日における請求拡張の申立書陳述の日)である昭和六一年一〇月二八日から、右各支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

4  同八枚目裏末行目から同九枚目表四行目までを削除する。

(控訴人の当審における主張)

1  本件交通事故は、被控訴人杉谷と同中谷の両名による「杉谷山」の原木販売の共同事業執行中に発生したものである。

すなわち、被控訴人杉谷は当地方有数の山林家であり、被控訴人中谷は山の立木を伐採しその伐木(原木)を搬出して販売することを事業内容とする原木業者であるが、被控訴人中谷は、昭和四七年以降、被控訴人杉谷所有の山林(前記「杉谷山」)の立木を伐採しており、両者の関係は、共同の組合事業ともいうべきである。そして、杉谷山の立木の伐採、搬出、売却はすべて被控訴人中谷とその事業後継者で履行補助者である長男の中谷光一がこれを独占的に行ってきた。

2  被控訴人鈴村は、無免許で普段は一人で白ナンバーのトラック持込みで運送業務に従事していた者であるが、昭和五七年一二月二〇日から同五八年八月八日までは、被控訴人杉谷及び同中谷の依頼により杉谷山の立木の伐採、搬出、販売業務のうち、搬出部門を唯一人で専属的に引受け担当し、さらに経済的にも右両名の原木業という企業に包摂されこれに従属していた。

3  本件交通事故は、被控訴人鈴村が原木を被控訴人中谷の土場に搬入して帰途につこうとした際、中谷光一から黒木を東製材所まで運送するように指示されてこれに従い、その運送途上で発生したものであり、被控訴人杉谷及び同中谷の前記事業執行中に発生したものである。

4  被控訴人中谷の仮定的責任

被控訴人中谷には、材木運送注文に当たり、運送人である被控訴人鈴村に対する注文又は指図に過失があったから、民法七一六条但書の責任を免れない。

(1) 中谷は、鈴村が運輸大臣の免許を受けないで運送業務に従事していることを知りながら同人に運送を依頼した。

(2) 中谷は、鈴村に運送を委託するに当たり、同人が人身事故に対する賠償につき経済的支払能力が乏しい者であることを認識しながら、任意保険等の契約を締結しているか否かの確認を怠った。

(3) 中谷は、本件事故当日、鈴村が午前六時三〇分に自宅を出て杉谷山の原木を龍神村から田辺市の中谷の土場へ運送し、右土場に着いたのが午後二時三〇分ころであったことを知りながら、直ちに田辺市から片道一時間を要する東製材所へ黒木を運搬させ、更に午後四時三〇分ころ田辺市の土場へ帰り着いた鈴村をして引き続き同製材所に向け黒木運搬させたその途上において午後五時五分本件事故が発生したものである。中谷としては、鈴村が自宅を出て既に一一時間を経過しているのであるから、鈴村において安全運転上支障が生じていないかどうかを認識し確認すべきであるのにこれを怠り、のみならず、右指示を拒否すれば運送業務から外されるおそれがあることを案ずる鈴村の弱い立場に乗じて右運送を指図したものである。

5  原判決認定の損害額は不当である。

(1) 控訴人の逸失利益につき、全年令平均給与額が採用されないのであれば、新制大学卒の賃金を基にして算定されるべきである。

(2) 控訴人の労働能力喪失率は、後遺障害別等級第七級相当の五六パーセントとすべきである。

(3) 本件事案では、控訴人に過失相殺されるべき落ち度はない。すなわち、控訴人は、交差点で一時停止し、対面信号が青色に変わってから発進していること、控訴人は、直進車でありしかも自動車専用横断道路を渡っていたことからすれば、控訴人が仮に鈴村車の左折の合図を見落としたことがあったとしても、自転車の安全地帯を走行する自転車の有無を確認することなく漫然と左折した鈴村に全面的な過失があり、控訴人には落ち度はない。

(被控訴人杉谷及び同中谷の当審における主張)

1  被控訴人杉谷は、山林所有者であり、同中谷は、同人からその伐採、販売を請け負ったのみでありその余の関係はない。

2  被控訴人鈴村は、自己の責任と計算の下に中谷から原木の運送を請負い独立してその業務に従事していたものであり、中谷との間に専属的、従属的な関係はない。すなわち、鈴村の得意先は中谷だけではなくその他にも多くの顧客があり、昭和五七年は中谷以外の者からの注文が多かった。もっとも、昭和五八年初めは中谷の荷物を運ぶことが多かったが、この期間中においてもそれ以外の注文主の運送もしている。また鈴村は、独立の会計を有し、車の修繕、ガソリン等は自分の意思で注文し代金を支払っている。

確かに、本件事故当時、鈴村が龍神村の現場から田辺市内の中谷の土場まである程度継続して運送を請け負ってきたが、これは立木の伐採が一日や二日でできるものではなく一定日数を要することから、たまたま継続したにすぎない。そして、中谷にとっては、同一の山の運送は同一人に続けてもらった方が仕事の段取りをする上でもベターであるし、鈴村にとっても一か所に集中した方が安定収入を得られるというお互いの利害が一致して継続的な結びつきが出来ているだけのことであり、それ以上の支配服従関係は全く存しない。特に、本件事故は、田辺市の土場から東製材所への黒木の運送途中に発生したものであるところ、龍神村から田辺市の土場までの運送についてはある程度の継続性があるとしても、それは田辺市の土場までのことであり、それ以降の運送については継続的な関係はなく、いわんや専属性又は従属性等は全くない。

3  控訴人の仮定的責任の主張は争う。本件は、注文又は指図に関する過失の問題ではないし、本件事故は、鈴村の疲労によって発生したものではない。

第三  証拠関係<省略>

理由

一被控訴人鈴村節男に対する請求について

当裁判所は、被控訴人鈴村は控訴人に対し、本件交通事故に基づく損害賠償として金二一五五万〇四四五円及びこれに対する本件事故後の本件訴状送達の日であること記録上明らかな昭和六〇年五月一八日から右支払いずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払い義務があると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、ここにこれを引用する。

(原判決の訂正)

1  原判決九枚目表末行目全部及び同一一枚目裏一行目から同一四枚目表三行目までを削除する。

2  同一四枚目表六行目の「負うた」を「負った」と、同裏一行目の「第五三号証の一ないし二六、」から四行目の「第六七号証の一ないし一五」までを「第五九号証及び第六四号証」と、同一七枚目表二ないし四行目の「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる」を「成立に争いのない」とそれぞれ改める。

3  同一八枚目裏五行目の「金二六万四〇〇〇円」を「金三五万二〇〇〇円」と、同九行目の「一、五〇〇円」を「二〇〇〇円」と、同末行目と同一九枚目表一行目の「金二六万四〇〇〇円」を「金三五万二〇〇〇円」とそれぞれ改め、同一九枚目表五行目の「金一〇万円」を削除し、九、一〇行目を「れるので、これを損害と認めることは相当でない。」と改める。

4  同二〇枚目裏四行目の「五〇パーセント」の次に「(この点は、必ずしも労働基準監督局長通牒「労働能力喪失率表」の数値に依らなければならないものではない。)」を挿入し、同二一枚目表一行目の「金二〇〇万円」を「金三〇〇万円」と、五行目の「金七〇〇万円」を「七五〇万円」とぞれぞれ改め、同裏三行目の「2から14」の次に「(但し、8を除く)」を挿入し、三、四行目の「金三、一一九万七、八四八円」を「金三二六七万五八四八円」と改め、六行目の「べきである」の次に「(控訴人が自転車専用横断路上を進行していたことが認められるが、そのことの故に当然に右注意義務を免れるものではなく、控訴人が右注意義務を果たしていれば、本件事故をある程度回避し、又は損害を幾分軽減しえた可能性があるから、公平上、過失相殺することは何ら不当ではない。)」を加え、七、八行目の「金二、八〇七万八、〇六三円」を「金二九四〇万八二六三円」と改め、九行目の計算式を削除する。

5  同二二枚目表二行目の「金一、九七一万八、〇六三円」を「二一〇四万八二六三円」と、同裏一、二行目の「弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる」を「成立に争いのない」と、四行目の「その立証がない。」を「これを認めるに足りる証拠はない。」と、六行目の「金一、八二二万〇、二四五円」を「金一九五五万〇四四五円」と、七行目及び九行目の各「金一〇〇万円」を各「金二〇〇万円」と、一〇、一一行目の「合計金一、九二二万〇、二四五円」を「合計金二一五五万〇四四五円」とそれぞれ改め、同二三枚目表一行目から九行目までを削除する。

二被控訴人中谷真一及び同杉谷義次に対する請求について

1  右両名の運行供用者責任の有無について

(一)  <証拠>によれば、次の各事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1) 被控訴人杉谷(以下、「杉谷」という。)は、地元有数の山林所有者であるが、昭和四八年ころから被控訴人中谷(以下、「中谷」という。)に対し、一年毎の継続更新の形で杉谷山の立木の伐採、搬出、販売を委託してきた。すなわち、中谷は右委託を受けて杉谷山に入り自己の判断で伐採木を選定してこれを伐採し、更にこれを搬出、運搬して売却するという一連の業務をなしており、その際、杉谷はその代理人をして伐採木の数量を確認するのみであり、その他の一切の業務は中谷に一任していた。そして、中谷は、自ら右売却代金を収受し、その代金の一〇パーセントを取得してこの中から諸経費(運送料等)を支払い、残りの九〇パーセントを杉谷に支払ってきた。

(2) 中谷は右業務の名義人であったが、老齢のため右業務のうち現場業務のほとんどを長男の中谷光一に当たらせてきたが、杉谷山の伐採木の搬出運送については、従来、田辺市内の橋谷運送等の運送業者に請け負わせてきた。そして、被控訴人鈴村(以下、「鈴村」という。)は、かつて右橋谷運送がチャーターした運送人として右運送業務に従事したことがあり、その関係で中谷とは面識があったが、杉谷とは全く面識がなかった。

(3) 鈴村はかつて木材運搬の雇われ運転手をしていた者であるが、昭和五〇年ころから運送業の免許を受けていないにもかかわらず、白ナンバーの自家用車で独立して木材の運送業を始め、前記橋谷運送や平田木材等から木材運搬を請け負っていたが、仕事の性質上、長期の請負になる場合が多く、例えば平田木材の仕事は昭和五五年から同五六年にかけての請負であった。しかし、鈴村は自己が無免許営業であることを隠蔽するため、昭和五七年に入ってから平田木材の了解を得てその所有にかかる鈴村車(八トン車)のボディに「平田木材」なる表示をしていたが、営業自体は平田木材とは何らの関係はなく独自で運送業を営んでいた。

(4) 昭和五七年ころ、中谷は前同様、杉谷から龍神村所在の杉谷山の伐採、搬出、販売の委託を受けていたが、同年一二月二〇日ころ、龍神村等から地元の運送業者を保護育成されたい旨の要望もあったので、龍神村在住の鈴村に対し、同人が無免許であることを知りながら杉谷山の龍神村の材木集積場から田辺市内の中谷の土場までの木材運搬を請け負わせることとした。そこで、右両者話し合いの上、右搬出運搬につき、一車(一往復)三万円と取決め、鈴村は右同日から右運送に取り掛かった。

ところで、右木材の搬出には相当長期の日時を要し、且つ一往復に約四時間半、一日に七時間を要し、一か月当たり概ね二〇ないし三〇往復の仕事であったから、その間は事実上他の仕事は出来ない状態であった。すなわち、昭和五七年一二月二〇日から同五八年八月八日まで、鈴村は、合計二一七回(往復)の運送、一六九日の稼働をしているが、その中、二〇三回(約九三パーセント)、一六一日(約九五パーセント)が右杉谷山の木材運送であった。特に、同五八年四月以降は全部が右運送であり、七月には運送回数が四四回、稼働日数が二八日にまで上り、その間、中谷以外からの収入はなかった。鈴村は、自分で運び切れない時は中家某にその代役を頼んでいたが、中谷は右搬出の七割以上を鈴村に請け負わせていた。

(5) 鈴村は、右運送の他にも、中谷から田辺市の中谷の土場へ木材を運送した帰りの便で右木材のうち黒木(主として松材)を右土場から南部地区の東製材所まで運搬することを依頼されて四、五回に亙り運搬したことがあったが、右運送は前記の杉谷山から右土場までの運送とは別個の契約によるものであり、木材一立方メートル当たりの単価を基準として運送賃が支払われていた。

(6) 鈴村は、前記の各運送に当たり、自宅に保管中の鈴村車に自ら雇い入れた積子一人を乗せて杉谷山の木材集積場に向かい、同所で中谷の人夫が伐採した木材を中谷の集材機で車に積込みこれを運搬して中谷の土場に下ろしていたものであるが、右車の修理代、燃料代等は鈴村がすべて負担し、搬出の方法、数量、回数等は一応鈴村の判断に任せられていた。しかし、最終的には、中谷の右土場で中谷から搬出数量の確認を受けていた。

(7) 本件事故当日、鈴村は、午前六時ころに自宅を出て六時半ころ龍神村の木材集積場に着き、早速木材を積込み運搬し、午後二時ころ、田辺市内の中谷の土場に着きこれを下ろしたところ、右土場で作業していた中谷光一から黒木を南部地区の東製材所へ運んでくれるよう依頼されてこれを引受けた。光一はリフトで黒木を鈴村車に積み込んだので、鈴村は、午後二時半ころ右土場を出て右運搬を済ませて右土場に戻ったところ、再度、光一から同所に行くよう依頼されたので、前同様黒木を積込み東製材所へ向かう途中に本件事故が発生したものである。

(8) 中谷は、右事故後の昭和五八年八月八日まで鈴村に右運送を請け負わせていたが、これは、中谷において鈴村が本件事故の補償に困るであろうことを考慮し、好意的にこれを続けさせたものである。

(二)  以上の認定事実によれば、被控訴人杉谷は、同中谷との間で前記の業務委託契約をしているのみであり、控訴人主張のような共同組合事業と類似の関係にあるものとは到底認め難く、実際上も、杉谷は、右業務一切を中谷に一任しており、鈴村とは全く面識がないというのであるから、杉谷は、鈴村の前記運行につき運行支配、運行利益を有するものとは認められない。したがって、杉谷は、自賠法三条の運行供用者、民法七一五条の使用者のいずれにも当たらないものというべきである。

(三)  そこで、被控訴人中谷についてみるに、中谷の前記業務は実際上、長男の中谷光一が差配していたものであるから、右光一は、中谷の履行補助者というべきである。

しかして、鈴村は、一応独立して営業していたとはいうものの、無免許で一人トラック一台を持ち込んで運送に従事している零細な業者であるから、正規の運送業者でないことは勿論、その実態においても雇用労務者と変わらないものというべきである。しかも、中谷は、鈴村の無免許の事実を充分知りながら、同人をして昭和五七年一二月二〇日から本件事故後の同五八年八月八日まで専属的、継続的に中谷の前記木材運送業務に従事させ、その間、鈴村はほとんど他の仕事をせず、経済的にも中谷からの前記運送賃に依存していたものである。もっとも、本件事故は、鈴村の本来の業務すなわち龍神村から田辺市内の中谷の土場までの運送業務中の事故ではないが、右業務も本来の業務と関連があり且つ接続していてその延長上にある業務ということが出来るし、しかも右業務は中谷の履行補助者である光一の指示に基づくものであるから、これが中谷の業務執行中に生じたものと認めるに妨げとなるものではない。そして、鈴村が自己の判断で一応運送の方法、数量、回数を決めていたとしても、光一は、田辺市内の土場にいてその運送量を確認しており、その際、鈴村に対して指示、監督することができる立場にあったものであり、現に、本件事故の際にも、鈴村が杉谷山からの運搬を終えたことを知りながら、改めて同人に前記の運搬を指示したのみならず、木材の積載を手伝っているものであり、その運行支配に欠けるところはない。

ところで、一般に注文者の運行供用者責任は限界事例と言うべきであるが、右認定の諸事情の下では、中谷は、鈴村の本件運行につき運行支配、運行利益を有するものと認めるのが相当であり、結局、被控訴人中谷は、自賠法三条の運行供用者として、本件事故によって控訴人に生じた損害を賠償する義務を免れないものというべきである。

2 控訴人の本件事故による損害については、前記一において判示したとおりであるから、被控訴人中谷は、同鈴村と連帯して右損害を賠償する責任がある。

三結語

してみれば、控訴人の本訴請求は、被控訴人鈴村及び同中谷に対し、各自、金二一五五万〇四四五円及びこれに対する昭和六〇年五月一八日から右支払いずみまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるので右限度でこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、被控訴人杉谷に対する請求は理由がないのでこれを棄却すべきところ、被控訴人鈴村及び同中谷の関係でこれと異なる原判決は不当であるのでこれを変更することとし、被控訴人杉谷に対する本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法九六条、八九条、九三条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大和勇美 裁判官久末洋三 裁判官稲田龍樹)

別紙<省略>

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